伝統を紡いで530年 修善寺温泉の名旅館「あさば 」

極上のホスピタリティ空間で過ごす、
愉悦の時間

空海（弘法大師）が開基した禅寺「修禅寺」に、1489年、浅羽弥九郎幸忠が宿坊を開いたことから「あさば」の歴史は始まった。約1万坪の敷地内で感じられる竹林や滝などの自然の風景と日本建築、調度品の調和は、まさに花鳥風月の極み。季節折々に心身を寛がせ、愉しませる宿のホスピタリティは世界中にファンがおり、なかには４世代にわたって訪れているゲストもいるという。

数寄屋造りの客室は全部で16室。その全てが中庭にある能舞台「月桂殿」に面している。座椅子やロッキングチェアなどは眺望や風通しの良さ、リラックスして心地よく寛ぐことが計算された配置となっており、しばし腰掛けて過ごせば、時を忘れて自然のリズムに馴染んでいく。畳敷きの床の間には、季節の掛け軸と山野草。シンプルながら上質な空気を纏う和室のしつらえは、わび・さびの美学を静かに感じさせている。

伊豆最古の湯に浸かり、
質の良い眠りにつく

日本百名湯に選ばれた修善寺温泉を内風呂、露天風呂ともに源泉掛け流しで。池のほとりにある野趣豊かな野天風呂のほか、空きがあれば入浴可能な家族風呂、男女それぞれ、檜の内風呂があり、気分に合わせて選べるのが楽しい。新しくなった離れ、「天鼓」の野天風呂は、山から滲み出した水の流れが岩肌を流れるさまを眺めながら湯に浸かることができるプライベート空間。こちらの部屋も返礼品を利用して、予約可能となっている。

風の気配、水の音に耳を傾け、床につく夜。あさばに長期宿泊の常連客が多い理由のひとつとして、“深い眠り”への約束が挙げられる。布団、ないしはベッドに横になると、ふわり空気を纏うくらいの軽やかな寝具とシーツの柔らかな肌触りが心地よい。あさばの寝具・リネン類は、実際にオーナーや女将がその使用感をチェックし、朝まで違和感なく、それでいて最上級の心地よさを感じさせるものを特注で作っている。そのせいか、寝具セットを一式購入して帰るゲストも少なくない。また、熟練の布団敷きのスタッフによる空気をはらんだ布団とピンと張られたシーツのセッティングにも定評がある。

花鳥風月に富む地で、美を愛でる

館内に入って最初に目に飛び込んでくるのは、宿の象徴ともいえる能舞台「月桂殿」。能や謡に親しんだ加賀大聖寺最後の藩主、前田利鬯（としか）子爵が東京・深川の富岡八幡宮に寄進したものを、明治後期に七代目浅羽保右衛門があさばへと移築し、今もなお現役の能舞台として使っている。40年前から始まった「修善寺藝術紀行」では、能楽や狂言、新内、文楽、琵琶楽など人間国宝の野村万作をはじめとした古典芸能の第一人者による舞台が開催されている。

世界的なアーティスト、ハリー・ベルトイアの名作、ダイアモンドチェアが目を引く開放的なサロン。サロン入り口にある現代美術家の宮島達男の作品や、ロビーの壁にかかる大きな李禹煥（リー・ウーファン）の作品など現代アートとの邂逅も、あさばに宿泊するからこその体験である。ゲストのための自由な寛ぎの空間は、シンプルかつスタイリッシュ。優れた芸術品や骨董品はさりげなく存在し、ゲストを喜ばせてくれる。宿泊したならば、鑑賞時間に制限はない。心ゆくまで芸術品を味わう贅沢な時間がそこにある。

日本初、仏「ルレ・エ・シャトー」
認定のホスピタリティ

四季折々の料理にも定評のあるあさば 。写真の「天城軍鶏のたたき鍋」は、秋から冬にかけての30年来の定番料理だ。伊豆天城の山懐で生産者が丁寧に育てた最上級の地鶏を包丁で叩いてツミレ状にし、ネギと出汁でいただく。素材の味が伝わる滋味深い味わいだ。締めには、鍋に修善寺の渓流コシヒカリを入れて卵を溶いた“卵丼”を。朝夕通して提供される出汁の味わいは、身体に染み入るように柔らかい。夏の名物「狩野川の鮎」や常連に人気の高い「穴子黒米鮓」と並び、これを食べることを目的に通う人もいるという。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく、香りのあるものは香り高く食べることができるよう、配膳、調理室は各客屋のそばにある。ゲストは、地の旬を最もおいしいタイミングで味わうことができるのである。

あさばは、加盟への条件として厳格な審査がされるフランスのホテル・旅館やレストランの協会組織「ルレ・エ・シャトー」に、日本で初めて加盟をした旅館である。特に、ホスピタリティや地域との連携、持続可能性などに重きを置いており、環境が循環していくことへの配慮も忘れない。 「私たちは宿を経営しているというよりも、守り人と思っています。長く続くこの宿や地域のひとつの繋ぎ手として、代々から預かったものをしっかりと管理して、この場でのひとときをお客様に喜んでいただく、ただそれだけに勤しんでいます」というのは女将の浅羽弥佐さん。古い建物は、営業を続けながらも変わらないように変えていくことが求められ、1年かけて新調する畳やリネン類などは常に心地よい肌触りで、安らぎを求めるゲストを受けとめている。 世界中でも超一流の宿やレストランにしか認められない「ルレ・エ・シャトー」の宿のおもてなしは、ゲストがおもてなしをされたことすら気づかないようなさりげなさで、最も居心地の良い時空間として訪問客の記憶に刻み、魅了し続けている。