【地域商社】市外への業務委託から卒業することで 寄付者や地元老舗との関係が綿密に

中間事業者への手数料がネック。参画を断念する地域事業者も

福岡県宗像市では、お礼の品導入を開始した2015年4月1日から2016年11月30日まで、ふるさと納税に関する受注や入金管理、商品企画・提案といった業務を東京都内の中間事業者に委託していました。

開始時、兼務職員1人、臨時職員1人という体制で人手が足りていないうえでの判断でした。しかし、実際に委託運営が始まってみると、その中で不都合を感じるようになりました。また、「中間事業者への手数料支払いにより寄付金の一部が結局都市部に流れること」の是非も議論に。事業者側にも手数料負担があることを理由に、お礼の品の事業参入を断念した事業者もいました。さらに地域事業者の感情としては、東京の事業者が地元の事業に踏み込んでくることへの違和感があったことも事実です。

そこで市はふるさと納税の独自運用を2016年10月から開始。1カ月の移行期間があり、11月末までは中間事業者とも契約していましたが、その後完全に卒業すると、配送調整など作業量の増加はあったものの、メリットの方が大きいことがわかりました。 

その一つが、寄付者と直接的なコミュニケーションができ、個々の要望に的確に応えられるようになったこと。たとえば、「もつ鍋の食べ比べセット」は、寄付者から寄せられた意見をもとに生まれたお礼の品。もともと醤油や味噌、明太子といった味のもつ鍋はありましたが、「食べ比べセットがあるといい」という声を反映し、醤油味、味噌味それぞれのセットを作り、明太子をつけました。同じく、人気の3種のもつ鍋が毎月1回、3カ月にわたって届くお礼の品も寄付者の声から生まれたものです。

老舗醤油メーカーに積極交渉。人気のお礼の品の一つに

中間事業者からの卒業により、地域事業者との関係も緊密になり、さまざまな波及効果が生まれました。たとえば、ふるさと納税の制度や魅力的なお礼の品の見せ方、寄付者への対応の仕方などを学ぶ研究会を実施し、これを機に、事業者同士の横のつながりも深まりました。円滑な配送サイクルの構築、クレームの減少といった成果も上がっています。

事業者と自治体の一体感も高まっています。その一例が、地元の老舗醤油メーカー、マルヨシ醤油との関係性です。当時の担当者である市職員の椎葉寛さんによると、「ふるさと納税に参画してほしいとお願いに行ったけれど、初めは興味を持たれなかった」とのこと。マルヨシ醤油の吉村一彦さんも、「他市の同業他社に、お礼の品として醤油は人気がないと聞いたから」と、否定的な考えでした。

しかし、椎葉さんは諦めませんでした。各事業者のお礼の品にマルヨシ醤油が使用されていることを知り、「これほどまでに地元の事業者に信頼されている醤油なら間違いない、と思いました」と椎葉さん。何度も足を運び、お礼の品の提案書を作成するなど熱心に声掛けした結果、ついにお礼の品として醤油の出品を開始。人気お礼の品の一つとなりました。

甘酒も椎葉さんの熱意により加わったお礼の品です。「麹の技術を持つ醤油職人の本格的な甘酒を味わってもらいたい」と出品を繰り返し提案し、「最終的に都内の方たちに味わってもらいたいので、都内で行われる『ふるさとチョイス』のイベントに持って行かせてください」とお願い。イベントでの反響をマルヨシ醤油に伝え、その後、宗像市のお礼の品に加わりました。

地域事業者もどんどん熱心になり、最近では「こういう特集を組めませんか?」と、お礼の品に関する提案が自発的に寄せられています。「ふるさと納税関係のイベント開催時も、積極的に参加・協力してもらえるようになりました」と、現在の担当者である佐藤友理さん。

自治体に事業者の声が集まり、運営の仕組み改善や、新たなお礼の品開発を実現しています。

提案書を作って何度も足を運び、事業者と熱心に交渉した椎葉さん。現在は他部署に異動しています。

現在の担当者である佐藤さん(右)と、マルヨシ醤油の専務取締役・吉村さん(左)。一度つないだ関係を、現在も良好に保っています。

「こだわり醤油セット」は、濃口、薄口、出汁入りの醤油とかぼすポン酢が一つになっています。

米麹と湯川山の伏流水で作ったマルヨシ醤油の甘酒も人気のお礼の品。砂糖や水あめなどは一切使用していません。

宗像市では季節ごとに、「ふるさと寄付担当者通信」として寄付者に職員の手描きイラスト入りパンフレットを配布。季節のお礼の品を詳しく紹介しています。

福岡県宗像市のふるさと納税について

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