伝統を守り、貫き、進化する岩谷堂箪笥

岩手県民の誰もが知っている伝統的な工芸品といえば、岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)です。奥深い漆塗りの美しさと繊細かつ迫力ある金具の装飾は、遠目に見ただけで「あ、岩谷堂箪笥だ」とわかってしまうほど。孫の代まで受け継いでも失われない美しさと、虫が入らないようにと作られた気密性、考え抜かれた機能性など、手を触れれば職人魂が伝わってくるような工芸品です。

工芸の美が詰まった岩谷堂箪笥発祥の街、江刺

その岩谷堂箪笥が作られているのは、世界遺産で知られる平泉町にほど近い、岩手県奥州市の江刺岩谷堂という場所。江戸時代の中期に岩谷堂城主、岩城村将(いわきむらまさ)が家臣にタンスを作らせたのが始まりと言われていて、200年以上もの長い歴史があります。そんな江刺の町には歴史的な史跡が多く残されているほか、商家などの蔵を活かした歩行者専用道路「蔵町モール」も整備され、当時の面影を今に伝えています。

昔からの技法を受け継ぐオーダーメイド

古くから岩手を中心に愛されつづけてきた岩谷堂箪笥は、南部鉄器などと並び岩手を代表する経済産業大臣指定伝統工芸品の一つです。伝統的な岩谷堂箪笥は三尺や三・五尺といったサイズの整理箪笥を基本としていますが、今はコンパクトな部屋の作りに合わせたオーダーメイドが主流になっています。

いつもの暮らしに伝統の職人技を

近年では、岩谷堂箪笥の雰囲気を身近な暮らしの道具として楽しめる「岩谷堂くらしな」シリーズも展開しています。タンス加工の中で出る端材を利用して作られるものが多く、伝統的なタンスよりも価格は抑えめ。特に時計や写真立て、鍋敷きなどが人気で、贈答品として用いられることも多いそうです。

切り出した木材を加工して組み立て、漆を塗り、優美な金具をつけて完成する岩谷堂箪笥。まずは、木部加工の制作現場を取材しました。

経済産業大臣賞を受賞した伝統工芸士

最初に訪ねたのは、18歳で職人の道に入ったという菅野好平さん。一昨年の「日本伝統工芸士会作品展」で、経済産業大臣賞を受賞した木部加工部門の伝統工芸士です。

岩谷堂箪笥では、およそ5年で「弟子上がり」をして一人前になるといわれています。好平さんは弟子入りから5年半ほどして、さらに技術を磨くため建具屋で働くことを決意。その後、「戻って来い」と声がかかり、再び岩谷堂箪笥の製作に携わるようになりました。今も建具屋で会得した技術を生かしながら、タンス作りに励んでいるそうです。

魂がこもったこだわりの仕事道具

タンス作りに必要な道具は、それぞれの職人がすべて自前で用意しています。ノミもその中の一つで、木の硬さや加工に合わせて使い分けているそう。一つのタンスを作るのに何度も研ぎながら作業を進めるため、すっかり刃が短くなったノミもありました。サイズだけ見ればかわいらしいですが、そこには好平さんとともに刻んできた職人魂がこもっているようにも感じられます。

自分の中の理想のタンスを追求する

次に訪ねたのは、岩谷堂箪笥生産協同組合の中で、唯一の女性伝統工芸士である鈴木高子さん。高校を卒業後、まったく違う業種で働いていたものの「ものを残す仕事がしたい」と一念発起して岩谷堂箪笥の門を叩きました。

岩谷堂箪笥には木地を担当した職人のハンコが押してあり、それを見て高子さんを指名した依頼が来ることもあるのだとか。そうした時には、「この仕事をしていて良かったと思います」と嬉しそうな笑顔を見せて教えてくれました。

目の前の、できることに最善を尽くす

高子さんはその小柄な身長から、大きいものはなかなか扱えないといいます。それでも最近は住宅に合わせてコンパクトなものが好まれる傾向もあり、「岩谷堂くらしな」シリーズなど高子さんの出番は少なくありません。職人になって20年以上の月日が経ちますが、未だに自分が納得できるものを作るのは難しいそう。もちろん商品として十分な価値を提供しているものの、高子さんの理想はさらにその先にあるようです。

「何度、同じものを作っても完璧だと満足したことはありません。でも、だからこそ常に追い求めるという楽しさがあります」

漆を重ねた先にある、息を呑む美しさ

木地の工程が完了してタンスが組み上がると、今度は漆塗りの作業に入ります。作業部屋の扉を開けると、漆独特の酸っぱいような匂いが立ち込める中で黙々と漆を塗る職人さんの姿が。木べらで漆を乗せて伸ばし、布を使って丁寧になじませていきます。この作業も一朝一夕ではできない高度な技で、長年の経験から得た感覚をもとにムラなく美しく仕上げます。まるで漆やタンスと対話するように作業をする職人さんの姿は、どこか神聖な空気さえ漂い、しばし無言で見入ってしまいました。

岩谷堂箪笥ならではの重厚な風合い

木材によって漆の入り具合が異なるため、まずは下地として着色という工程を経てから、商品に合わせて漆を重ねる回数を変えていきます。スタンダードなもので4~5回ほど重ねていくと、やがて鏡のように輝き、漆が杢目を美しく際立たせます。その後、漆製品は天日干しでは乾かないため、漆室(うるしむろ)と呼ばれる部屋で乾燥させます。この部屋の床には熱線を入れてあり、時期によっては床に水を撒き、蒸気を立てて温度や湿度の管理をするそうです。

美を凝縮した彫金という美しさ

岩谷堂箪笥の美しさを、より引き立てているのが金具の存在です。大学卒業後、この道に入ったという及川洋さんは、岩谷堂箪笥生産協同組合の中で唯一、手打ち金具を製作する伝統工芸士です。

手打ち金具は鉄板や銅板をタガネと呼ばれる金具で打ち付けて、龍や鶴、牡丹などさまざまな模様を描きます。模様の下絵は明治時代から受け継がれているものもありますが、多くはお客様の要望に合わせて作成しているそう。なかにはペットの写真をもとに下絵を描くこともあるのだとか…。

すべての金具を生み出す職人技

日頃、洋さんが使うタガネは、およそ50~60本。少しカーブがかかっているタガネの先の部分を鉄板や銅板に当てて玄能(金槌)で叩き、下絵に合わせて模様を彫っていきます。作業場には鍛冶場が併設されていて、鉄の棒を焼いて叩いて、使いやすいタガネを自作することもあるのだそう。また、タンスにつける取っ手や鍵など、装飾以外の金具もすべてこの場所で作られています。

洋さんは、「下絵から金具づくりまで、すべて携わることができるのがこの仕事の魅力です」と語ります。細部まで手仕事が息づく“本物”であること。これこそが岩谷堂箪笥の真髄ともいえる職人技なのですね。

命を吹き込まれ、目覚める装飾

すべてを彫り終えたら、今度は模様の立体感を出すために裏側から浮き出るように玄能(金槌のこと)で叩きます。そしてまた表から模様の外側の線だけを叩く…。これを何度も繰り返すことで、より繊細に、かつ迫力ある模様に仕上がります。

玄能でカンッカンッと叩くごとに、模様に命が吹き込まれていくようにも感じられる高度な技術。洋さんは「1枚くらいなら、それほど難しくなく作れますよ」と笑いますが、その迷いのない動きに「これが職人技というものか」と感動すら覚えました。

彫金の美しさをインテリアにも

岩谷堂箪笥では引き出しの数などに合わせて同じ模様の金具が複数必要になりますが、手仕事のためまったく同じものはできません。それを一見して同じに見えるように作ることが、一番難しいと洋さんは語ります。近年では「岩谷堂くらしな」シリーズで、彫金を施した時計や小物入れなどを製作するほか、さまざまなものをオーダーメイドで提供しています。

人に寄り添い、愛され続ける岩谷堂箪笥

現在、岩谷堂箪笥生産協同組合には40人ほどの職人が在籍しています。職人の技は教科書で学べるようなものではなく、あくまでも先輩たちの姿を見て学び、自ら磨き上げていくもの。そうして鍛えられた職人の心が、目の前の工芸品に立ち現れていきます。歴史があるということは、それだけ長く人の心を魅了し愛されてきたということでもあります。「岩谷堂箪笥にずっと憧れていた」という声やリピーターも多く、そうしたお客様の反応が、職人にとっては何より嬉しいことなのだそう。

伝統を重んじながら時代とともに進化し、常に人々の暮らしに寄り添ってきた岩谷堂箪笥。これからも技を磨き続ける職人たちによって、手仕事がつむぐ究極の一品を、生み出し続けていくことでしょう。

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テーブルや玄関など様々な場所で活用できる小物入れです。
三つ重ねると、伝統あるデザインの階段箪笥に仕上がります。

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「暮らしの一部になれるものづくり」をテーマに米びつを展開しています。
桐材は虫がつきにくく、湿度からお米を守る効果があると言われています。

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岩谷堂箪笥と同じ木材・金具を使用し、拭き漆で仕上げました。
大切なお写真に、上品さと気品をプラスします。

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岩谷堂箪笥の材料や技術・技法を用いて「和モダン」をコンセプトに製造しました。
玄関に置き、靴を履くためのスツールに。リビングやベッドルームにおいて、サイドテーブルとしてもご利用頂けます。

611,000円以上の寄付でもらえる

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江戸・天明年間に製造が始まった岩谷堂箪笥は、美しい欅の木目、金具、漆塗りが特徴です。
岩谷堂箪笥を小型にし、身近において小物収納に適している製品です。

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江戸・天明年間に製造が始まった岩谷堂箪笥は、美しい欅の木目、金具、漆塗りが特徴です。
職人の精巧な手仕事ならではの「からくり仕掛け」のある車付きの箪笥です。

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