酒米を育て、老舗蔵元で醸す。高校生の学びと感謝が詰まった、限定300本の大吟醸「〇結 えんむすび」
海あり山あり大河あり、真冬に雪が降り積もる長岡市には、豊かな自然環境で育まれる土地の恵みがたくさんあります。もちろん、日本酒もそのひとつ。新潟県内最多16の蔵元それぞれが手がける銘酒で国内外の地酒ファンを魅了しています。
JR長岡駅から車で南に10分ほどの摂田屋(せったや)は、江戸時代から味噌、醤油、日本酒の蔵が並ぶ“発酵・醸造のまち”。のんびり散策していると、蔵から漂う芳香が鼻をくすぐります。そんな摂田屋の老舗、長谷川酒造で醸す「〇結 えんむすび」は、新潟県立長岡農業高校の3年生が栽培した酒米で仕込み、卒業式の日に感謝の気持ちを込めてリリースされるメモリアルな大吟醸。高校と蔵元のほかにもたくさんの人々が携わり、名前のとおり、地域の縁が結ばれて誕生した唯一無二のお酒なのです。
2023年に徒歩圏内の地域連携スタート
長谷川酒造は天保13年(1842年)創業。昔ながらの手作業で行う丁寧な酒造りに定評のある蔵元ですが、伝統をしっかり守りながら新しいチャレンジにも積極的に取り組んでいます。
長岡農業高校との距離はわずか1.2キロメートル、歩いて15分ほど。このコラボレーションによる酒造りは2023年に始まり、今年で3年目となりますが、実は2019年から、農高生が栽培した酒米で日本酒を造る実習は県内の別の蔵元で行われていました。両者をつないだのは、無農薬・減農薬米などを手がける循環型農業生産者が集って設立し、米の生産販売や小学校での田植え指導、災害支援などを行うエコ・ライス新潟。長谷川酒造の社長、長谷川葉子さんの「歩いて来られるから、うちで協力しますよ」という言葉で話が進み、地域の連携が生まれました。
酒造りに使用するのは酒造適合米「五百万石」。米の消費拡大を目指して稲作を学ぶ、生産技術科作物生産コースの生徒たちが摂田屋の学校実習田で栽培します。日本酒の副産物である酒粕を土壌改良材に、米糠を除草剤に活用するなど、先輩たちの研究成果を反映しながら、地球環境に配慮した循環型農業を実践しています。
今年度の酒米班は、男子・女子2人ずつの4人。3年生になった春に始まる苗作りと田植えから、8月の稲刈り、米の検査、精米、お酒の仕込み、ラベル製作、商品として完成させるところまで、たくさんのサポートを受けながら一年にわたり活動します。
凍てつく真冬の酒蔵で、いよいよ仕込み
長岡に雪がしんしんと降る12月下旬、エコ・ライス新潟で精米した酒米を長谷川酒造の酒蔵に運び込み、仕込みが行われました。
仕込みに参加したみなさん。左から、農業高校の卒業生でエコ・ライス新潟に勤務する大島さん、農高3年生の山口さんと平野さん、長谷川酒造で杜氏を務める鈴木さん、農業高校の石井先生。残念ながら酒米班4人のうち2人が病欠のため、山口さんと平野さんが倍の頑張りを見せてくれました。
農高生4人が心を込めて栽培し、エコ・ライス新潟で大吟醸用に精米歩合50%まで磨いた酒米「五百万石」がこちらです。
杜氏の鈴木さんが仕込みのポイントについて生徒たちに説明します。
「仕込みが終わったときに温度を8度にしたい。いま4.2度で、8度にするにはだいたい23度くらいのお米を入れないと上がりません。蒸しあがったお米は熱いから風で冷まして調整します」
「ここにお酒の設計図があって、酒母(しゅぼ)、初添(はつぞえ)、仲添(なかぞえ)などと書いてあるでしょう。その歩合を変えるとお酒の味が変わってくるんです。初添の歩合が大きいとスタートで酵母が一気に増えて安全に醸造ができます。日本酒は上が空いたタンクで仕込むから、雑菌もいますが、酵母を優先的に増やすやり方で、発酵の形態を2つやらなきゃいけない。原料のお米の中にブドウ糖がいないから、でんぷんからブドウ糖をつくらせる。麹がでんぷんをブドウ糖に変え、ブドウ糖を酵母が食べてアルコールをつくらせる。これを同時にやっていくのですが、そのバランスが大切です」
酒造りは科学そのもの。数学と生物の知見も必要な奥深い世界です。杜氏として試行錯誤を重ね、真夏の高温による酒米への影響も考え、新潟県醸造試験場にも相談して最適解を導き出した鈴木さんのお話に、ふたりともしっかり耳を傾け、メモを取っていました。
鈴木さんの指導で蒸して冷ました酒米をざるに入れて運び、大きなタンクの中へザバッと一気に投入。酒米を投入したら、次は長い棒でゆっくりかき混ぜる“櫂入れ(かいいれ)”という工程です。
後日、タンクに醸造アルコールを投入し、また櫂入れを行いました。「おいしくなーれ」という気持ちを込めて混ぜる生徒のみなさん。さて、どんなお酒が出来上がるでしょう。
手漉きの「小国和紙」をオリジナルラベルに
1月末に酒蔵を訪れた生徒たち。出来上がった酒を搾る工程も体験し、その後は瓶詰めへ。瓶に貼るラベルのデザインも農高生が担当しています。印刷する紙は、長岡市小国町で300年余の伝統を持つ「小国和紙」。小国和紙生産組合の協力を得て職人さんが来校して手漉きの技術を教え、生徒たち自らが紙漉きに挑戦しました。生徒からは「けっこう力が要る作業で、水が冷たくて大変でした」という感想も。
収穫したお米の藁が手漉き和紙に混ぜ込んであるという、こだわりのラベルです。
2月、長岡農業高校の作物実験室で作物生産コースの生徒による課題研究の発表がありました。酒米班は、いつどのような作業や調査を行なったか、どの工程でどのような発見と考察があったのか、一年間の研究について4人が順番に発表。
充実した時間を過ごしたことが伝わるレポートで、最後は関わった方々に向け「本当にありがとうございました。みなさんのご期待に添えるような製品をつくれるよう精一杯がんばります」という言葉で締めくくられました。経験は後輩に引き継がれ、次年度のプロジェクトに活かされます。
酒米班からは、こんな声が聞こえてきました。
「なかなか経験できないことをやらせてもらいました。麹菌・酵母菌など微生物の力やちょっとした配分の違いで味が変わるという点でお酒づくりに惹かれていて、将来やってみたいなと思っています」
「仕込みのときも搾りのときも、誰かが病気になって全員で参加することができなかったのが残念でしたけど、本当にいい経験でした」
エコ・ライス新潟では、生徒のみなさんが成人を迎えて乾杯できる日までお酒を冷凍保存しておくのだとか。感謝の気持ちとロマンが詰まった特別なお酒「〇結 えんむすび」。20歳になるまで数年ありますが、大きな学びの成果を確信して、みんな晴れやかな笑顔になりました。
令和7年度3年生の学年カラーは緑色。爽やかな装いの「〇結 えんむすび」四合瓶が、いよいよ卒業式当日の3月2日に発売されました。300本という限定品のため売り切れ必至。下記のサイトから予約を受け付け中なので、ぜひ手に入れて味わってみてください。
(田植え、仕込みなど、作業風景の写真の一部は、
エコ・ライス新潟と長谷川酒造よりお借りしました)
●インフォメーション
長谷川酒造
【住所】新潟県長岡市摂田屋2-7-28
【TEL】0258-32-0270
エコ・ライス新潟
【住所】新潟県長岡市脇川新田町字前島970-100
【TEL】0258-66-0070